以前の記事
2018年 02月2018年 01月 2017年 12月 more... お気に入りブログ
ヴォーリズを訪ねて近代建築Watch レトロな建物を訪ねて Books & Things モダン周遊Ⅱ メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
「十三大橋」十三橋から西に河口まで、凡そ四粁(km)の長堤を歩いてゐると、秋の日の午後、西風の強く吹く日など、思ひもよらず展開される大都会の姿を見ることがあった。さうゆふときには、大阪特有の濛気(もうき)を吹き払って、あからさまに描き出された大建築の簇立(ぞくりつ)が、さながら、夢にみる蜃気楼のやうな美しさであった。それは、どこの露台からみたよりも明るく、大きく、かつ魅力をもってゐた。しかし、翌日また同じ時、同じ所に立ってみても、大阪はただ漠々たる煙霧に閉されて、何ひとつ見えない灰色の海であることが多い。~ 北尾鐐之助著 『淀川』(昭和18年刊:趣味の京阪叢書)「新淀川漫歩」より 十三大橋(じゅうそうおおはし)は、1932(昭和7)年に開通した橋で、北尾鐐之助は同年に刊行した『近代大阪』でも、同様に「新淀川漫歩」と題した中で、この橋について、やはり新しくできた大道路とともにふれており、近代的に様変わりした十三の町の様子を記している。 橋の親柱のたもとには、その当時の日本を代表する工業都市「大阪」を象徴する歯車をモチーフにした装飾があるが、冒頭の文章にもあるように、十三側の堤から見た大阪市街地は、いつも工場の煙で灰色に霞んでいたようだ。 十三大橋を設計した増田淳(1883-1947)は、『モダン都市東京』(海野弘著)でもとりあげている白鬚橋を手がけており、優美な5連の鋼タイドアーチが特徴的な十三大橋が、まさに近代的な機能美を誇る建造物であり、重要文化財に指定されている永代橋や清洲橋にも匹敵するモダンデザインの傑作であることは、この橋を歩いて渡ってみれば実感できる。 両端の梁だけが、アールデコ風にデザインされており、それが、より一層この橋を優雅なものにしている。 橋のたもとにたたずみながら、私は次のような情景を思い浮かべて、昭和のはじめ頃にタイムスリップしてみた・・・。 ~そして河を横切り河に沿って、都会と田舎をつなぐほゝ笑ましい風景が点綴(てんてい)される。長い箱の上に河風を受けながら、吹かれ歩く風車屋が行くかと思ふと、一台の車に、ごてごてと一切の荒物、台所道具を飾り立てゝ、祭車を曳くやうに動いて行く荒物屋。水桶をこぼすまいと、腰を据ゑて、堤を下って行く金魚売。騒然として河風に鳴り渡って行く風鈴屋。虫屋。盆栽屋など、都会を彩る夏の風物が、みなこの大河を渡って、大都会の霧の海に溶け込んで行くのである。~ そして、しばらくすると・・・ 野球の練習をしている少年達の元気な声とともに現代に呼び戻されるのであった。
by suzu02tadao
| 2013-01-14 14:43
|