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1920~30年代を中心に、あれこれと・・・
by 大阪モダン
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マルセル・デュシャン

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 1961(昭和36)年1月号『美術手帖』 では、作家研究として、マルセル・デュシャンがとりあげられています。

 「ダダの神様!」というセンセーショナル?なタイトルは、ちょっといただけませんが、その当時、まだ日本ではあまり知られていなかったことを思えば、微笑ましくもあります。
 しかしながら、デュシャンとも直接交流のあった瀧口修造(1903-1979)と山口勝弘(1928- )との対談によるデュシャンについての解説は、今読んでみてもとても分かりやすいもので、その後の、多くの美術評論家や作家の謎めいた解説によって神話化されてしまったデュシャンの姿よりは、よほど理解できる内容になっています。
マルセル・デュシャン_c0239137_10562957.jpg
以下抜粋…

 山口 ~芸術家の型として、たとえばピカソなんかは名実ともに大巨匠といえるけれど、デュシャンの場合はまるきりちがいますね。つまり芸術家というのはひとつの完成された作品をつくるとか、自分の様式をあくまでも守るとかいうのが、立派な作家の態度とされていたわけですが、デュシャンはそういうものをぜんぜん否定する、その彼の生き方自身が作品のかわりのような意味でもあるんじゃないでしょうか。~

  瀧口 そう、これは芸術というものの根本的な問題でもあるんですね。つまり二十世紀になってから、芸術というものに対する認識が根本からゆらいできている。もちろん偉大な芸術家は出ています。たとえばいまいったピカソ―― しかしそのピカソですら、いわゆる前時代からの自然主義的な面に立脚した巨匠だと思うんです。~


  山口 ~それともうひとつ、たとえば立体派、ダダ、シュルレアリズム、そして現代のアクション・ペインティング、アンフォルメルというように、つぎつぎと芸術運動がおこってきているが、その中で、作家と作品のあいだの関係という問題はあくまでも変らないと思う。だけどデュシャンは、その作家と作品の関係をもっとも根本的に考えている人間じゃないかと思うんです。

  瀧口 そこなんですね。ルネッサンス以来十九世紀まで、作者と作品とはなんの疑問もなく直結していたんですね。しかも芸術という観念が厖大にふくれてしまった。そこで芸術作品というものの社会的な存在そのものに、いろいろな矛盾がでてきたわけです。~


 モノクロではありますが、ほとんどのデュシャンの代表作品の図版が載っています。
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 有名な「階段を降りる裸体 No.2」はカラー版で載ってます。ただし、当時は「階段を降りる裸婦 No.2」となっています。
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 さて、1958年~64年にパリで行なわれたモダン・アートの旗手たちへのインタビューということで、シャガールやフジタやアンドレ・ロートなどが載っている『画家は語る―20世紀の巨匠たち 奇跡のインタビュー』という本を読んでいたら、その中にはデュシャンもあって、次のように語っていました。

 「~かつて絵画といったらとても難解な代物だった。キュビスムが引き起こした革命など、50年後の今になってこそ、評判になってはいるが、当時は何の反響もなかったんだ。発案者たちも、そんなことが続くだろうとは考えてもいやしなかった。そもそもキュビスムは、衝撃的な方法などではない、ただの遊びなんだよ。今やその時代の革命児たちは名声という罠に捕らえられてしまっている。~」

 「私はもう絵画の仕事からは引退した。私には麻薬はいらない、このテレピン油のにおいは必要ないのさ。」

 この本の著者でインタビュアーのピエール・アスティエは筆相学の専門家でもあって、デュシャンの筆跡から、その性格を次のように考察しています。

 <音楽、文学、絵画と様々な才能に恵まれたデュシャンは、どの分野で自己を開花させるべきかがわからない。そんなことはどうでもいい、与えられた人生を生きることの喜びが十分楽しめるならば。
 デュシャンは、楽天的合理主義哲学に適応した人間の典型のように見える。ある高みから眺めるならば、人生とはユーモアに満ち、さほど不快なものではないということに、彼はすぐに気づいてしまったのだ。>

マルセル・デュシャン_c0239137_118083.jpg

by suzu02tadao | 2014-03-09 11:10
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