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「暮らしの器」秦秀雄独特の筆致で、「佐渡嶋伝来 珍堂」の箱書があります。 秦秀雄は、柳宗悦や北大路魯山人をはじめ、青山二郎、小林秀雄、白洲正子などとも交流があり、井伏鱒二の『珍品堂主人』のモデルとなったことでも有名で、骨董商として駆け出しの頃の中島誠之助先生を、しっかりと騙して修行させたりと、胡散臭いエピソードには事欠かない人物でもありました。 秦秀雄は、柳宗悦の『雑器の美』に触発されて、骨董の器に興味をもったのですが、その当時は柳宗悦の他、北大路魯山人、倉橋藤治郎、小野賢一郎、青山二郎といった伝説の「目利き」たちが台頭して、既成の美の価値観を揺さぶっていた時代だったのでした。 まさに「美」の下剋上ともいえるわけで、「目利き」たちの戦国時代でありました。 魯山人の唯我独尊ぶりは有名ですが、柳宗悦の民藝を書生っぽのゲテモノ趣味だとか、小野賢一郎などは焼物をわかっていないというと、小野賢一郎は、魯山人なんて贋物ばかり買ってるじゃないかといった具合に、それぞれが皆、激しい自我の持ち主だったため、たがいに悪口を言い合っていたようです。 また、青山二郎は初めて会った秦秀雄に、年下にもかかわらず、 「やきものやるんだって?一丁もんでやろうか」といきなり言ったということです。 後年、骨董に目覚めた小林秀雄は、青山二郎にいじめられるとよく秦秀雄のもとを訪れたようですが、私などが十年かかって体得したことを一年で身につけてしまったと小林秀雄の天才ぶりを評しています。 そして、せっかく手に入れた下図の初期伊万里赤絵の優品を、あっという間にかすめ獲っていった白洲正子を称賛するのです。 今日の感覚からすれば、ふだんの暮らしで使うものなのだから、もっと気軽に楽しんだほうがいいのではないか…とも思えるのですが、封建社会の権威主義が幅を利かせていた時代に、独自の価値観を貫きながら、したたかに生き抜いてきただけに、上から目線の教訓めいた独特の言辞が多いのは、いたしかたないのかもしれません… 菊や蘭やばら、椿なんぞに、名花は名人の苦心のはてに華々しく咲きいでるであろう。それを決して私はいけないとはいわない。無論その艶麗に打ち見とれもしよう。しかし、だからと言って野路を歩いて路傍に見かける野草の名もない花の風情を見すごして歩くほど怠慢ではない。 ~(略)~私が歩く、行くところ路傍座辺にいろんな野花が咲いているように好もしい骨董品が目につく。美術品と自慢し披露出来ないにしても、捨てては見すごせない愛品にも遭遇する。 どこにでもある野の草、庭先で咲いている花々、草むらから飛び出す兎、月夜に出会った雁の群れ、身近な風物ばかりがそのままに、筆の先からよみがえったのである。
by suzu02tadao
| 2015-06-13 11:25
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